Relay v18 の throwOnFieldError と GraphQL Nullability

Yosuke Kurami
22 min readOct 16, 2024

Relay v18.0.0 にて @throwOnFieldError@catch, @semanticNonNull といったエラーハンドリングに関連する Directive が追加された。 これらの Directive の意味と活用方法をこのエントリで解説していく。

なお、今回のエントリは自分が書いた以下エントリの続編としての意味合いも含んでいる。

Relay v18 で追加された Client Side Directive

GraphQL Erorrs をコンポーネントから扱える

Relay v18 で追加された @throwOnFieldError および @catch はクライアントサイド, すなわち GraphQL オペレーション側に記述する Directive である。

以降の解説のため、次の GraphQL クエリを題材とする。

query {
book {
title
author {
name
}
}
}

このクエリに対して、author フィールドにてエラーが発生したしよう。この場合、レスポンスには data に正常に取得できた部分が、errors にエラーが発生した箇所の情報が格納される。

{
"data": {
"book": {
"title": "GraphQL Book",
"author": null
}
},
"errors": [{ "path": ["book", "author"], "message": "Something went wrong" }]
}

また、data 部におけるエラーが発生したフィールドの値は null となる。これは GraphQL のエラーハンドリングを考える上で重要な性質であるため、後半で別途詳細を解説する。

上記の errors 部分は GraphQL の仕様に定められた挙動であるが、おそらく Relay ユーザーの場合、この GraphQL Errors を意識してきたことはあまりないのではなかろうか。というのは、Relay アプリケーションの場合、データアクセスは主に useFragment Hook 関数に頼ることになるが、クエリレスポンスにおける errors の情報が useFragment の結果には影響を及ぼさなかったからだ。

@throwOnFieldError@catch を利用すると、クエリレスポンスで発生した GraphQL Errors 情報が useFragment 結果に伝達されるようになる。 Relay Runtime が errors に集約された情報を Leaf たる Fragment 側に分配してくれると言い換えることもできる。

以前に https://quramy.medium.com/graphql-error-%E4%B8%8B%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%8B-%E6%A8%AA%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%8B-3924880be51f にて、

GraphQL の errors フィールドの場合、コロケーションとの組み合わせの相性があまりにも悪いのだ。

と書いたことがあるのだが、v18 で導入された Directive によって、この考え方も見直されたと言えよう。

エラー送出まで含めてコンポーネントに委ねることができるようになったというのは、コロケーション大好きな筆者にとって、好ましい機能追加である。

@throwOnFieldError

まずは @throwOnFieldError から。この Directive は次のように Fragment 定義に付与する。

function BookSummary({ fragmentRef }) {
const data = useFragment(
graphql`
fragment BookSummary_Book on Book @throwOnFieldError {
title
author {
name
}
}
`,
fragmentRef
);

// render using book data
}

上記の例では、BookSummary_Book Fragment のいずれかのフィールドに GraphQL Error が存在する場合に useFragment Hook それ自体が JavaScript Error を投げる。したがって BookSummary コンポーネントは描画されずに、上位の Error Boundary に補足されるまでエラーが React コンポーネントツリーの末端から頂点へ伝播していく。

@catch

もう一つの Directive, @catch はフィールドに付与して利用する。@throwOnFieldError が GraphQL Error を JavaScript Error として throw するのに対し、@catch はその名の通り発生した GraphQL Error を捕捉するために用いる。

function BookSummary({ fragmentRef }) {
const data = useFragment(
graphql`
fragment BookSummary_Book on Book {
title
author @catch {
name
}
}
`,
fragmentRef
);

if (!data.author.ok) {
console.log(data.author.errors); // [{ message: "Something went wrong" }]
return <AuthorFieldError />;
}

const author = data.author.value;

// render using book and author data
}

上記の例は、Book.author フィールドそれ自身と配下のフィールドで GraphQL Error が発生した場合に反応する。コードでも例示した通り @catch Directive が付与されたフィールドは Result 型に変更されるため、正常系の値を取り出すには data.author.oktrue であることを確認してから data.author.value のようにアクセスする必要がある。

type Result<T> =
| {
ok: true;
value: T;
}
| {
ok: false;
errors: unknown[];
};

@catch を多段階に適用させた場合、GraphQL Error が発生したフィールドから見て一番近い @catch に捕捉される。

fragment SomeFragment on AwesomeType {
hoge @catch {
fuga
piyo @catch
}
}
  • hoge で GraphQL Error が発生した場合: hoge@catch に捕捉される
  • hoge.fuga で GraphQL Error が発生した場合: hoge@catch に捕捉される
  • hoge.piyoで GraphQL Error が発生した場合: piyo@catch に捕捉される

Semantic Non Null

ここからは @semanticNonNull Directive の解説をしていきたいのだが、その背景として GraphQL における Nullability について触れておく。

GraphQL の Field Nullability

本エントリでは以下の GraphQL レスポンスを題材としてきた。

{
"data": {
"book": {
"title": "GraphQL Book",
"author": null
}
},
"errors": [{ "path": ["book", "author"], "message": "Something went wrong" }]
}

ところで、今回はレスポンスやクエリは例示してきたが、それらの源泉たる Schema は例示していない。 しかし、上記のレスポンスから Schema について分かることが1つだけある。 それは「author フィールドは絶対に Strict(= Non Null) Type ではない」ということだ。

type Book {
author: User # User! であることはあり得ない
}

Null Propagation とレジリエンス

仮に Book.author が Non Null Type であったとしよう。

type Book {
title: String!
author: User!
}

type User {
name: String
}

type Query {
book: Book
}

この場合 Book.author にてエラーが生じた場合、「author フィールドは Null ではない」という Schema で宣言した制約を満たせなくなる。このケースにおいては GraphQL の仕様上、より上位の Resolver 結果を Null にすることで、レスポンスと Schema 間の齟齬が生じないようにすることが定められており、 結果として data.book まで含めて Null となる。

この仕組みは “Null Propagation” または “Null Bubbling” と呼ばれており、Schema 設計時の悩みの種となる。

前述の Schema について、書籍の情報を管理しているサービスと著者の情報を管理しているサービスが分散しており、GraphQL Resolver はそれぞれのマイクロサービスと通信していたとしよう。 Book.author が Non Null Type であるということは、何かしらの障害で著者情報管理サービスが応答不能になった場合に Book.auhtor だけでなく、参照可能である Book.title まで Null Bubbling に巻き込まれることを意味する。

このように、Non Null Type の利用は Schema としてのレジリエンスを低める方向に作用してしまうため、Type 間の参照は Nullable とすることがベストプラクティスとされている¹

Nullable Field が引き起こすトレードオフ

レジリエンス観点では Nullable Field でいいのだが、Schema を利用する立場からすると、「なんでここは Null になるんだ」と常々向き合う必要がでてくる。

業務的にも Null になり得るのであれば、クエリのデータが Null かどうかだけでなく「errors に当該パスを含むかどうか」まで見に行かないと、障害なのか、ただデータが存在しないだけなのか区別が行えない。

また、業務上 Null になり得ないという場合でも、Schema を見ただけではその意図は伝わらない。コメントで補足するか、または Union を使うことになる。

# コメントで補足するパターン
type Book {
title: String!

"""
Null になるのはエラー発生時だけ
"""
author: User
}

# GraphQL Union で表現するパターン
type Book {
title: String!
author: AuthorResult!
}
union AuthorResult = User | ServiceError

また、フロントエンドは都度「エラーでないこと」を確認しないと author の中身にアクセスできないため、コードも冗長にならざるをえない。

const data = useFragment(
graphql`
fragment BookSummary_Book on Book {
author {
name
}
}
`,
fragmentRef
);

if (!data.author) {
throw new AssertionError();
}

console.log(data.author.name);

@semanticNonNull Schema Directive

結局のところ、GraphQL Schema が「このフィールドは基本的には Null にはならない」を表明できていないことが混乱を生んでいる。

  1. Non Null Type: field は確実に値をもつ: author: User!
  2. Nullable Type: field は 業務上も Null となり得る: ???
  3. Semantic Non Null Type: field は は障害が発生しない限り Null にはなり得ない: ???

GraphQL Schema が構造的に 2. と 3. の区別を付けられるようになっていれば以下のようなコメントは不要になるはずである。

type Book {
title: String!

"""
Null になるのはエラー発生時だけ
"""
author: User
}

もちろん GraphQL として見分けを付けられるようにするためには、GraphQL Schema Definition Language(SDL) に何かしらの新しい文法を追加しなくてはならない。2024 年 10 月現在では GraphQL Nullability WGで議論がなされている最中であり、どのような表現となるかは未定である(例えば、graphql/graphql-spec#1065 には ! を前置することで Semantic Non Null を表現する RFC である)。

そこで、暫定的に Semantic Non Null Type と Nullable Type を区別するために Relay の Jordan Eldredge 氏の主導のもとで考え出されたのが @semanticNonNull Schema Directive である。

directive @semanticNonNull(levels: [Int] = [0]) on FIELD_DEFINITION

type Book {
title: String!
author: User @semanticNonNull
}

上記のように、Semantic Non Null, すなわち「業務上は Null にはならない(がエラーが発生した場合を除く)」、の表明に用いる。

余談だが「これ RFC とすれば新しい Syntax は不要では?」と思う方がいるかもしれないので念の為に補足しておくと、GraphQL Schema Directive は飽くまで「その Schema の実装者に指示するため」のものであり、フロントエンドへの表明としては本来不十分である²。

@semanticNonNull@throwOnFieldError, @catch の合せ技

前半に解説した @throwOnFieldError@catch を使うことで、Relay コンポーネントはフィールドが Nullish かどうかだけでなく、そのフィールドがエラーだったかどうかまで認識できるようになった。また、Relay Compiler は当該フィールドに @semanticNonNull が付与されているかどうかを知っている。

Semantic Non Null Field の持つ「エラーが発生しない限りは Null ではない」と、@throwOnFieldError が持つ「フィールドでエラーが発生したらコンポーネントがエラーを投げる」を組み合わせると、コンポーネントから冗長な Null Check を排除できるのだ。

type Book {
title: String!
author: User @semanticNonNull
}
function BookSummary({ fragmentRef }: Props) {
const data = useFragment(
graphql`
fragment BookSummary_Book on Book @throwOnFieldError {
title
author {
name
}
}
`,
fragmentRef
);

// data.author は TypeScript 上 Strict
console.log(data.author.name);
}

上記は @throwOnFieldError の例であるが、 @catch においても、data.author.ok を確認したあとは、 data.author.value に Strict な型が手に入る³。

なお、 @semanticNonNull は Relay 発の Schema Directive ではあるものの、Relay 以外のフレームワークでも対応しているものがある。

v18 以降の Relay Null Handling スタンダード

ここまで Relay v18 で導入された 新規 Directive の利用方法とその存在意義を解説してきた。最後に、これらをどのように使うとよいかについて、現時点での筆者の考えを記載しておく。

Nullable なフィールドへ @semanticNonNull を付与を検討する

まず、業務上は Null になり得ないのであれば、それはコメントではなく @semanticNonNull Directive を記載するように。

# Bad
type Book {
title: String!

"""
Null になるのはエラー発生時だけ
"""
author: User
}

# Good
type Book {
title: String!
author: User @semanticNonNull
}

@throwOnFieldError to Error Boundary

useFragmentusePreloadedQuery で用いる GraphQL Fragment, Operation の定義時には @throwOnFieldError を付与すること。これにより、フィールドが Semantic Non Null なのであればコンポーネントにおける冗長な Null Check が不要となる。

また、GraphQL Error がコンポーネントから throw されて Error Boundary でキャッチされる、というのは React のコードとしても自然な形であると言えよう。 useFragment Hook 関数として見ると、Fragment が Deferrable な場合に Promise が throw されて、上位 コンポーネントの Suspense でキャッチするのと類似している⁴。

Partial Error を考慮して細かく Error Boundary で Fragment Container から投げられたエラーをハンドリングしてもよいが、まずはアプリケーション最上位の Error Boundary でキャッチして「予期せぬエラーが発生しました」画面の表示に留めるもよしである。Partial Error については Schema Data Source がどこまで分散しているかなどのコンテキストによって、その必要性が異なってくるが、いずれにせよ通常の React アプリケーションのエラーハンドリング作法に乗っておくことがまずは重要。

どこまで GraphQL Errors を許容するべきか

@catch@throwOnFieldError によって、アプリケーションレイヤから GraphQL Errors を扱いやすくなったのは事実であるが、それでも所詮 type GraphQLError = { message: string } でしかない。 Resolver で Error Extension を使えばより複雑なオブジェクトを GraphQL Errors に詰め込めるが、Relay Compiler はその複雑な Extension を認識できるわけではない。 エラーハンドリングとして複雑な処理を行おうとしているのであれば、それは準正常系として Union なりで表現した方がよほど楽である。

type Book {
title: String!
author: AuthorResult!
}

type AuthorError {
complexField: SomeComplexType!
}

union AuthorResult = User | AuthorError

これを考えると、コンポーネントそれ自身でエラーハンドリングを行う @catch よりは「異常系ハンドリングは別に任せる」の思想である @throwOnFieldError の方を優先して利用したい。

@required は利用しない

Nullability の制御という意味では、Realy v17 で @required という Directive が追加されているが、これは最早使用しない方がよい。

ref: https://relay.dev/docs/guides/required-directive/

たとえば、以下は Resolver が author を Null として返却した場合、Relay が強制的に エラーを引き起こすことを引き換えにして data.author が Strict Type となる。以前、GraphQL Spec の RFC として CCN(Client Controlled Nullability) として提案されていた機能である。

fragment BookSummary_Book on Book {
title
author @required(action: THROW) {
name
}
}

@required@throwOnFieldError とは違って GraphQL Errors を認識しているわけではない。クライアント側だけで「Null にはなりません!」と言っているイメージ。TypeScript の Non Null Assertion ととても似ているし、実際 data.author!.title としているのと挙動として大差がない。

もし、Semantic Non Null の意味で @required を利用しているのであれば、 @semanticNonNull@throwOnFieldError で代替可能であるので、乗り換えを検討するとよい。

Appendix. Resolver 実装と Semantic Non Null Field

本エントリはクライアントサイドたる Relay を中心に書いてきたが、サーバー側の実装についても捕捉しておく。

@semanticNonNull は「エラーにならない限り Null ではない」を表明するための Schema Directive であり、サーバー側はこの制約に準拠する必要がある。

type Book {
title: String!
author: User @semanticNonNull
}

すなわち、 @semanticNonNull が付与された Field Resolver の実装にて Null をエラーの代わりに用いるコードを書いてはならない。

const Book = {
author: async (parent, _, context) => {
try {
return await context.userServiceClient.fetchById(parent.authorId);
} catch (err) {
console.error("Unexpected error occurs.", err);

// Bad
return null;
}
},
};

以下のように修正すること。

const Book = {
author: async (parent, _, context) => {
try {
return await context.userServiceClient.fetchById(parent.authorId);
} catch (err) {
console.error("Unexpected error occurs.", err);

// Good
throw err;
}
},
};

筆者は TypeScript で GraphQL のサーバー側の実装を行うときは、GraphQL-Codegen の typescript-resolvers プラグイン で TypeScript 用の Resolver Types を生成するのだが「 @semanticNonNull を付与したフィールドは Null を返却できない」というオプションがあると、より安全に作業を進められるのではと考えている⁵。

参考資料

脚注

  1. レジリエンスだけでなく、Schema の後方互換性を保ちやすいという観点もある。
  2. Schema のメタデータ問題は太古の昔から未解決である。 https://github.com/graphql/graphql-spec/issues/300
  3. 厳密には relay-compiler の v18.0.0 では @catch 側は未実装. https://github.com/facebook/relay/pull/4794 で修正された
  4. @defer と Suspense については https://quramy.medium.com/render-as-you-fetch-incremental-graphql-fragments-70e643edd61e を参照されたし
  5. 少し前に自分で Issue と PR を書いた. 2024 年 10 月現在オープンなまま: Issue: https://github.com/dotansimha/graphql-code-generator/issues/10151, PR: https://github.com/dotansimha/graphql-code-generator/pull/10159

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Written by Yosuke Kurami

Front-end web developer. TypeScript, Angular and Vim, weapon of choice.

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